人ごとではない「妊娠していることに気づかない女性たち」
お腹の赤ちゃんは二人の子なのです
女性がトイレなどで出産し、赤ちゃんを遺棄するという事件がときどきあります。
そのニュースを聞くと、いかにもその女性だけが悪者となっています。「○○容疑者」…。
もちろん、その赤ちゃんが生きていようと、亡くなっていようと、そのままにしたり、遺棄したりすることは犯罪です。
ニュースの報じ方だけを鵜呑みにすると、おそらく世間のみんなは、「なんてひどい女なんだ!」とか、「妊娠してるってさすがに気づくでしょ」「病院行けよ」など、その女性に対しては「悪いイメージ」しか感じないと思います。そのように報じています。
しかし、果たして「その女性」だけに責任があるのでしょうか?
そもそも、赤ちゃんができるというのは、女性一人では無理です。男性との性行為、もしくは人工授精、体外受精をしなければ、お腹の中に赤ちゃんができることはありません。当たり前のことです。でもニュースで報じられるのは、女性のみ。その背景に、男性がいることはなかったかのように。
人工授精、体外受精は、男性の意思もあってのうえで、不妊治療をしている病院やクリニックが行っています。その後も妊娠反応、妊娠管理、出産、産後も責任をもってくださいます。
私がいつもニュースをみてなんとも言えない気もちになるのは、「誰かとの性行為により妊娠し、それに気づかず、もしくは気づいていても受診せずに、出産を迎えた」という事実の裏にある、男女の関係性の複雑さや、貧困、孤独、もしかしたら発達の問題などが考えられるからです。
どんな関係でも二人の子
・二人が愛し合っているのに、妊娠に気づかない、もしくは相談できない
性行為をするという場面、愛し合っている者どうしでも、それが「妊娠を想定していない」ことはあるでしょう。
その時はそれで幸せかも知れません。しかし万が一妊娠したときはどうでしょう。月経がこないと思い始めたとき、胎動で妊娠を疑ったとき、もしもパートナーが信頼できる人であれば、相談することができるのではないでしょうか。そのようなときに相談できる相手であること。本当に女性のことを愛しているパートナーであれば、もしも子どもをもつつもりがない方でも、今後どうするか、おたがいどうしたいか、話し合うことはできるのではないかと思います。相手の女性が「月経が来ない」と言っている場合、妊娠を疑い、二人で妊娠検査薬で調べましょう。それでなくとも、月経が3ヶ月以上こないのであれば、婦人科受診をすすめます。
では二人が愛し合っているとしても、例えば不倫であり「相手に迷惑がかかるから相談できない」とか、「愛しているけど信頼していない」など、まだ「相談できる関係」ではない場合もあると思います。そのような二人の間で妊娠が発覚したとき、どうなるのでしょうか。
「産む・産まない」の選択はたった一人で考える問題ではありません。
産むことも、産まないことも、たった一人では女性の体や心にとって、また経済的にも大きな負担となるからです。
パートナーに相談でき、今後のことを二人で考える事ができるなら、それにこしたことはありません。しかしいまいち相手のことが信頼できず、すぐに相談できない場合、パートナー以外に信頼し相談できる人がいるのであれば、幸いです。身近な人に相談できないときは、匿名で相談できる相談先も、各都道府県にあると思います。一人で抱え込まないようにしていただきたいです。そしてなるべく早めに、産婦人科受診をしましょう。ここでしてほしくないことは、「現実逃避をしないこと」。
頭の片隅に「妊娠…」という小さな文字が浮かんでいるのに、「もともと月経不順だし、妊娠じゃないはず」とか、「たしか避妊したし」など、「もしかしたら」の現実から目を背けている方が男女ともにいらっしゃいます。
中絶できる時期に期限があることをご存じでしょうか。妊娠21週6日をすぎたら、中絶することは法律で禁じられています。つまり、どんなに産む意思がなくても、育てる意思がなくても、出産しなければいけないのです。これについては今後の投稿で。
・誰にも相談しないまま、妊娠検査薬で検査し、陽性であれば一人で産科受診をする方もいらっしゃいます。
受診後は産むのか、中絶するのか、まだ決めていない場合はよく考えていただき、決めてもらいます。しかし中絶する意思があっても、中絶するにはパートナーのサインも必要です。できるだけ二人で決めましょう。
産むと決める場合も、赤ちゃんを一人で産み、育てていくのは大変です。周囲に手伝ってくれる人はいるのかは、かなり大きな課題ですし、お仕事をしている方でも、一時休むことになるため、経済的に心配はないのか、パートナーがその子を認知してくれるのか、認知したあと、その子に対して経済的な支援をしてくれるのか。何よりその子が自立するまで、責任感をもって育てていく意思があるのか。
「産む」という選択。小さな命を大切にするという事は大切です。でも、産む女性にとって本当に大きな負担にならないのかは、十分に考える必要があります。
これだけの重要なことを、妊娠が発覚したら、短期間で考える必要があります。
性行為をするということの未来に、これだけの人生の選択があることを想像していますか?
産み育てること、または中絶することについては、今後の投稿で詳しくお伝えします。
貧困
生活費にかかるお金。家賃、保険、光熱費、食費、日用品、被服費、スマホ代、交際費、季節ごとに必要になる備品や家電など…。自分の収入からこれらを差し引いて、余裕があるでしょうか。さほど贅沢をせずとも、月にかかる費用は一人暮らしであれば、家賃以外でも10万円程度はかかりそうです。これに家賃が加わった費用が月々かかります。また、その人の背景はそれぞれなので、学生、フリーター、社会人など、その人によって収入はバラバラです。
そんな中、もし「妊娠しているかも知れない」という状況が起こった場合、病院に行くには、さらにその費用が必要となります。妊娠が未知の世界であれば、通院するのにどれぐらい費用がかかるのかも想像できないと思います。毎月やりくりに苦労している状態の方にとっては、「病院代」も節約の対象となっています。特に症状がなければ受診しない、受診そのものさえ、思い浮かばないかも知れません。
「月経が来ない状況」が続いていても、「病院受診」までにいたらない。お金に困っている方に取っては、「妊娠しているかも」よりも、「少しでも節約」の方が大切なのです。
孤独
「孤独」とは、「心の孤独」です。例えば一緒に暮らしている家族がいらっしゃる場合でも、関係性があまり良くなくて、ちょっとしたことでも相談できる環境ではない事もあります。実際、「妊娠に気づかない女性」が全員一人ぐらしというわけではないのです。実家暮らしのかた、パートナーと暮らしている方でも、出産まで周囲も妊娠に気づいていなかった、という方が多くいらっしゃいます。毎日会うからこそ、体の変化に気づきにくいという事もありますが、それよりも、そのことに関して「相談できる関係性、状況ではなかった」という事が大半です。
・家族とうまくいっておらず、あいさつもろくに交わしていない、わざとすれ違うように帰宅したり、食事も一緒に摂っていなかった
・パートナーと同棲しており、性行為もしていたが、自分に無関心。自分も太っただけと思っていた。もしくは、「もしかして妊娠…」と頭によぎることもあったが、パートナーに何もいわれないため、自分も気にしなかった。
・特別、家族との関係性が悪いわけではないけど、家族が忙しくて「迷惑をかけたくない」「心配させたくない」「怒られたくない」との理由で相談できなかった
このように、周囲に家族やパートナーがいる方でも、妊娠に気づかなかったり、気にしなかったり、何となく言えないままになってしまったりすることがあります。
発達の問題
なぜ妊娠にきづかない?
助産師として仕事をしていると、「妊娠に気づかなかった」女性は時々いらっしゃいます。
妊娠初期ではなくても、お腹が大きくなり気づく、月経の遅れが想像以上になり、妊娠を疑う、胎動(赤ちゃんの動き)を感じ、まさか赤ちゃん?と思う。このような気付き方で、妊娠中期から後期にかけて産婦人科を受診する場合もあります。「まさか妊娠と思わず、気づきませんでした」と大抵の方はおっしゃいます。
ではなぜ気づかないのか。
以下の理由が考えられます。
- もともと月経不順で、月経が来ないことに慣れている
- つわりを感じる妊娠初期に、特に体調不良がなかった
- 自分は妊娠するような体質ではないという思い込み
- 避妊方法のかんちがい
- 現実逃避している
などの理由があげられます。
月経不順
・月経周期とは
月経開始日より次回の月経開始前日までの日数のこと。
例えば、1月の月経が1/1から7日間で、次の月経が1/29から始まれば、月経周期は28日。
さらにその次の月経が2/28から始まった場合、1/29~2/27までの日数を数えて月経周期は30日。
最も多いのは、28日から30日周期と言われています。しかし周期は人それぞれで違いがあり、同じ人でも体調を崩したり、急な体重変化があったりすると、女性ホルモンに影響があり、周期が乱れます。
思春期に月経が始まってから、ずっと月経不順の方もいらっしゃいます。2~3ヶ月月経が来ない、という場合もよくあります。
・排卵はいつ起こっている?
月経は、月経血により目にみえるものです。でも、排卵はいつ起こっているのか。
おりものや,左右片側の下腹痛や、張っている感じで、「今日排卵かなあ」と意識している人もいらっしゃるかも知れません。
また、妊活中であれば、基礎体温をつけたり、ホルモンの勉強をして知識があり、大体の排卵日の予測ができる方もいらっしゃいます。
でも、大半の方は、日々の学校や仕事に追われ、そこまで排卵のことを意識はしていないのではないでしょうか。
精子と卵子が受精することで、受精卵となり、それが子宮内膜に着床して妊娠が成立します。
排卵は目に見えません。
もちろん性行為がなければ、妊娠のことは何も心配することはありませんが。
1度でも身に覚えがあるのであれば、その1回で妊娠している可能性だってあり得るのです。
つわりによる体調不良がない
妊娠初期は、多くの方が「つわり」を経験します。
・吐き気、嘔吐
・倦怠感(だるさ)
・眠い
・食欲減退、嗜好の変化
・車酔いがひどい
・たべづわり(空腹で気もちが悪い)
等です。
妊娠に気づかず、妊娠中期や後期になってから初めて妊婦健診を受ける方に聞くと、「特に気分が悪くなったりしなかった」「そういえば、食欲がない時期があったけど、夏バテかと思っていた」「単に胃腸が弱っていたのかと思ってた」等の声があがります。
つわりが軽い方は、特別に感じる事なく、妊娠初期が過ぎるのです。
つわりと気づかなくても、症状がひどくて内科でも胃腸科でも病院受診した場合は、妊娠の可能性があれば、妊娠検査をしたり、産婦人科に紹介する病院もあります。
しかし軽い場合、ほぼない場合は、つわりだとは、妊娠だとは気づきません。
自分は妊娠するような体質ではないという思い込み
この思い込みをしている方は、意外に多いものです。
性行為をするようになってからあまり避妊をしていないけど、妊娠しなかった、というそれまでの状況から、「私って、妊娠しにくい体質なんだ」とか「妊娠するわけがない」とか、思い込んでいるのです。また。先に述べた、月経不順だから妊娠しないはず、という思い込み。
男女が性行為をした場合に絶対に妊娠しない条件は
・子宮がない
・卵巣が両方ともない
・排卵自体が起こっていない
です。このうち、「排卵自体が起こっていない」は目に見えないことなので、本人は分かりません。
ここで気をつけるべき事は、「ちゃんと避妊した」は、入っていない事。
ピルやコンドームでしっかり避妊したつもりでも、妊娠の可能性はあるのです。
月経不順のかたも、今まで妊娠していなくても、男女が性行為をすれば、妊娠する可能性はあるのです。
男性の方も、もし相手の女性が「私妊娠しない体質だから」と言っても、鵜呑みにしないで、子育てする気もちがないのであれば、必ず避妊してください。そして、万が一妊娠したときに「この女性との今後」を考えておいてください。
大げさかも知れませんが産婦人科に勤めていると、現実問題なのです。